その根底にあるのは、一人ひとりが主体的に生きていること、豊かに生きていること。楽しく暮らしていること。人間らしく、生き生きしていること。そのことを大切にしていること。 工房集は「そこを利用する仲間だけの施設としてではなく、新しい社会・歴史的価値観を創るためにいろんな人が集まっていこう、そんな外に開かれた場所にしていこう」という想いを込めて「集(しゅう)」と名付けました。
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【活動報告】中津川浩章さんによるアートレクチャー(7/15開催)

【活動報告】中津川浩章さんによるアートレクチャー


開催日:2021年7月15日(木)
時間:16:00~17:00
会場:工房集+オンライン
参加者数:49名
講師:中津川浩章氏


◆講師プロフィール

美術家・画家として記憶・痕跡・欠損をテーマにブルーバイオレットの線描を主体としたドローイング・ペインティング作品を制作。国内外で展覧会多数。
障害者のためのアートスタジオディレクション、アールブリュットの展覧会キュレーション、あらゆる人を対象としたアートワークショップ、講演、ライブペインティングなど、アート、福祉、教育とさまざまな分野で社会とアートの関係性を問い直す活動を行っている。アール・ド・ヴィーヴル、工房集、埼玉県障害者アート展、ビッグアイアートプロジェクト、日本財団DIVERSITY in the ARTS公募展選考委員アートディレクター。2014川崎岡本太郎美術館「岡本太郎とアールブリュット」展キュレーション。表現活動研究所ラスコー代表、一般社団法人Art Inter Mix代表、一般社団法人ゲットインタッチ理事、NPO法人アール・ド・ヴィーヴル、NPO法人エイブルアートジャパン。


◆主旨
美術家であり、埼玉県障害者アート企画展のキュレーターである中津川浩章氏より、企画展のプロセスや障害のある方の表現について美術の文脈から学びます。まだ、これから表現活動を始める施設への導入、基礎的な知識の復習を目的としています。
第12回埼玉県障害者アート企画展のための作品選考会の参加者向けとしても開催しました。


◆内容
はじめに、障害のある方の表現活動に関わるようになったきっかけや埼玉県障害者アート企画展に関して、記録写真を振り返りながら具体的な準備の進め方などを解説していただきました。この企画展では、埼玉県障害者アートネットワークTAMAP±○に参加している福祉施設の職員を中心に、展覧会に関わるみんなが考え、動き、作り上げています。その意義をお話しいただき、今後も現場の声を展覧会に生かしていく重要性を伺いました。


続いて、現代アーティストと障害のある方の作品を比較し、齋藤裕一さんとサイ・トゥオンブリ、尾崎翔悟さんとバスキアなどはじめ、美術的な観点からその共通点と差異を学びました。西川泰弘さんとアボリジニのアートでは、点描の手法や、アボリジニ・アートが記憶と地図として描かれている点、さらには作者本人の感覚の敏感さが作品から読み取れるので、その点についても共通しているのでは、とお話しいただきました。
齋藤裕一さんの作品


さらに、展示の事例を紹介しながらその関係性を解説いただきました。
中津川さんがキュレーターを手掛けられた展覧会では、鎌江一美さん(やまなみ工房所属)の陶芸と縄文式土器を並列して展示しており、鎌江さんの作品には、写実性や再現性という西洋の美術史を超えて、25,000年前から人間が生み出してきた根源的な力があるとも伺いました。

また、家族との思い出の写真を触り続けることで擦り減った杉浦篤さんの写真は、その行為が結果として表現とは何かの問いかけになっています。プロセスを問いかけることも芸術なので、それを伝える展示方法を展覧会に合わせて考えていく一方で、さまざまな行為によって生み出されたものの全てがアートではなく、美術用語では「スクリブル」(4.5才に見られる手法)という殴り描きなどの場合でも、「美しさ」や「イメージの喚起力」が必要だとお話しいただきました。
杉浦篤さんの写真


そして、障害のある人たちの表現活動の関わり方としては、利用者さんの興味のあるものは何だろう?体の動かし方や何を見ているか、何に興味があるのか?など、関わることの積み重ねから、その人そのものを見つめることが大切だとお話しいただきました。また、良い作品を生み出すことが目的ではなく、表現されていない言語や内在するエネルギーそのものを引き出していくことの大切さ。そのことによって新しい価値を創出する事や、社会的なつながりを生み出すことが重要だと教わりました。

最後にアートと福祉の関係性では、希少性、オリジナリティを重要視されるのがアートであり、公平性・平等性を重んじるのが福祉である。一見すると相反する分野ではあるが、人間の本質的な表現に触れることができるのが福祉で、その現場にいて感じることを展示に生かすことで新しい価値観を作っていくことの大切さを伝えて頂きました。

参加者からの感想では、「埼玉県立近代美術館での企画展に自分の宝物(集めたもの)が展示されているのを見た作家の表情がとても穏やかで、大好きなコレクションをいろんな人に見てもらえて良かったと思っている。」、「作品を制作し、展覧会に出展することで、作家本人は評価されたことが喜びになり、職員との関係が変わり、生活にも良い影響を与えている。」というコメントがあり、中津川さんより「すぐに変化があることもあれば、年単位でゆっくり変化が現れることもあるかと思います。気長に取り組んでいくことも必要かと思います。」という返答をいただきました。